片桐牛乳店物語 第3話

「バスに乗り遅れるな!!」

ついに念願の処理工場を建て上げ、毎日奮闘する勇士英(初代)でした。
従業員も二人雇えるようになり、家族だけの商いから、小さな「会社」へと歩みを進めました。
昭和29年9月。有限会社片桐牛乳店の設立。

社員を抱えるということは、その家族までも背負うということ。
勇士英はその責任の重さを胸に刻みながらも、胸の奥では確かな誇りが燃えていました。
商売はもう自分ひとりの夢ではない。地域を支えることが使命となっていました。

だが、平穏は長く続きませんでした。
創業から4年後、大手乳業メーカーが次々と県内に進出してきました。長岡の街には新潟乳工(後の森永乳業)の工場が建ち、森永牛乳販売店の看板があちこちに立ちはじめました。地元の牛乳屋さんたちが次々とその傘下に入っていく中で、勇士英の胸には不安が募りました。

「このまま個人乳業でやっていけるのか……。」

そんな折、明治乳業から特約店契約の話が舞い込みました。
せっかく整えた設備を手放すことになる――苦渋の決断を前に、勇士英は諸先輩方に相談しました。

アドバイスの言葉は短く、しかし胸に突き刺さる言葉でした。

「バスに乗り遅れるな。」

その一言が、彼の迷いを吹き飛ばしました。
時代の波に逆らうより、その流れに乗る勇気を選ぼう。
昭和33年8月。長岡市に明治乳業が進出。片桐牛乳店は明治乳業特約店として、新たな一歩を踏み出しました。捨てたものはあった。だが、掴んだのは未来だった。勇士英の決断が、次の時代へと片桐牛乳店を導いていったのでした。


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